しましょうかな。どうも、花聟の方が揉烏帽子《もみえぼし》にこの恰好《かっこう》ではあまりぱっとしませんが、さあ、文麻呂殿、お立ちなさい。……あなたの恋いに焦《こが》れたなよたけが待っているのですよ。(文麻呂をたすけ起す)
文麻呂 (狐《きつね》につままれたように大納言に手をとられて、立上る)
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男女の群集は、得たりとばかり、中央に道を開く。……
大納言に手をひかれて、中央奥、御所車の方へ歩いて行く石ノ上ノ文麻呂。
きらびやかな御所車はまるで「祭壇」のように神秘を孕《はら》んで立っている。
両側の群集は何か素晴らしい見世物《みせもの》を期待するかのように、しーんと静まり返って、この儀式を見物している。
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御行 (御所車の前まで文麻呂を連れて行って)この中にあなたの思い焦れるなよたけの君がいるのです。文麻呂殿。なよたけはあなたのものです。なよたけははじめっからあなたのものだったのですよ。
文麻呂 (茫然《ぼうぜん》として、御所車の前に佇立《ちょりつ》したまま、動かない)
御行 どうしたのです。え?
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