変な誤解をなさったもんですよ。まるで、この物狂いの娘が、人もあろうにこの私の所にお輿入《こしい》りをするかのように云いふらしたのですからね。いや、もう、お蔭でこの大納言、とんだ迷惑《めいわく》をしましたよ。しかも私にはれっきとした奥の方がいるんですよ? まあ、噂をなさるのも時には愛嬌《あいきょう》があっていいものですが、いくらなんでも、そんな、あなた、根も葉もない噂を都中にふれ廻されたら、どんなお人好しの大納言だって、そりゃ、あなた、怒りますよ。
文麻呂 (悪夢から我に返ったように)……嘘《うそ》だ! そんなことはみんな嘘だ!
女10[#「10」は縦中横] あらッ! この人何か言ったわ!
男2 大納言様! いくらか正気づいて来たようでございますよ。
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男女達、再びがやがやと私語をしながら、文麻呂の様子を好奇的《こうきてき》に眺めはじめる。
[#ここで字下げ終わり]
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御行 おや、文麻呂殿。……少しは気分がよくなって来ましたかな?……さあ、それでは、この機会を見計らって、なよたけ姫の「聟取《むこと》り」の式をあげることに致
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