だ。清原にしたって、貴様にしたって、とにかく、生死を誓った俺の無二の親友なんだからなあ……(左の方へ抜足差足で逃げて行く小野ノ連に気がつき)おいッ! どこへ行くんだ!
小野 (ぎくんとして立止る)
文麻呂 どこへ行くつもりなのだ!
小野 (意を決したように、悲壮《ひそう》な顔)石ノ上! 俺は失敬する! 君を見棄《みす》てるのは忍びないが、俺は気違いと行動を共にするのはまっぴら御免だ! 君がなよたけの唄と聞いているのは、あれは山籠《やまごも》りに行く行者どもの呼ばい声だぞ! 君が小鳥の声と聞いているのはあれは鈴の音《ね》だ! 君は気が狂っているんだ! 恋のために気が狂っているんだ! 君とはもう今日限り絶交だ! 清原だってもう君とは手を切ったぞ! 都中の人達はみんな君のことを気違いだと云ってるんだ! 君なんかと交際《つきあ》ってたら、俺達はどんな眼に遭《あ》わされるか分りゃしない! とんだ「人笑え」だ! 俺達までが気違い扱いにされちまうからな! 俺達の将来まで滅茶滅茶にされちまうからな!
文麻呂 (悲痛《ひつう》な声をしぼって)小野ッ! 何を云うんだッ! 待ってくれ!……小野ッ!
小野 石
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