は、あの竹の葉がさやさやと春風にそよぐ音は聞えないのか? 俺にはそれまで手に取るように聞えて来るのだ。
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遠くの方から、魂《たま》ごいの行者達の呼ばい声が鈴の音と共にだんだんと聞えて来る。
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小野 (その声にはっとして耳を澄まし、何やら烈しい恐怖感に襲われ、文麻呂が眼をつむっているすきに、抜足差足《ぬきあしさしあし》で左方にこそこそ逃げて行こうとする)
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行者達の声、鈴の音、だんだん近く。
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文麻呂 (夢から醒《さ》めたごとく徐《おもむ》ろに眼を開き、うっとりと)ああ、なよたけはこの世の奇蹟《きせき》だ! 月の世界から送られて来た清らかな魂の使者だ! 俺はなよたけがこの世に生きていると云うことを思うだけで、この上もない生《い》き甲斐《がい》を感ずるんだ。……清原と云う奴は実にしあわせな奴だよ。なよたけはあんな奴には勿体《もったい》ない位だ。……それでも大納言の手に渡るよりはよっぽどまし[#「まし」に傍点]
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