うのに!……行ってしまやがった。……
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石ノ上ノ文麻呂が右手に現れた。
先ほどの粗末《そまつ》な下人の装束《しょうぞく》で、何やら抑《おさ》え難《がた》い血気が身内にみなぎっている様子《ようす》である。舞台の右方に立ち、遠くから小野《おの》ノ連《むらじ》をきっと凝視《みつ》める。
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文麻呂 おう。小野ノ連ではないか!
小野 俺だ!
文麻呂 何だ。君も来ていてくれたのか?……小野! いよいよ待ちに待った今日のこの日だ!
小野 おめでとう!
文麻呂 用意|万端《ばんたん》は既《すで》にととのった!
小野 成功を祈るよ!
文麻呂 とうとう、ここまで漕《こ》ぎつけたよ! 後は清原がやって来るのを待つだけだ……
小野 それはよかった!……まあ、そんな所に立っていないで、こっちへ来いよ。
文麻呂 うむ。
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文麻呂、中央にやって来る。
小野ノ連、詮索《せんさく》するように文麻呂の眼付、挙動をじろじろ眺めている。文麻呂は得体《えたい》の知れぬ興奮に、その眼は異様に輝き、なるほど、天空に向っ
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