》しくなって、まるで眼の前になよたけが現れたかのように、話し出すんだ。「ああ、なよたけ! お前だけなんだ! 真実の魂を持っているのはお前だけなんだ! 僕はお前のお蔭で、初めて生れ変ったような気がする! お前はまるで天の使だ!」僕はそれを見ていて、何だか全身がぞっとして、総毛《そうけ》立《だ》って来たよ。あれは恋などと云う生《なま》やさしいものではない。あれはもはや狂気だ! 恐るべき精神の錯乱《さくらん》なんだ! そうかと思うと今度は、また行方《ゆくえ》も分かぬ虚空の彼方《かなた》に眼をやって……
小野 (突然、右手を見)あ、やって来た!……しーッ。
清原 (右手を見、急に狼狽《ろうばい》し始める)……小野、僕は失敬する! 頼む! あいつにそう云ってくれ! あいつは何をしでかすか分りゃしない! あんな奴と行動を共にするのはまっぴら御断りだ! 僕あもう今日限りこんな大それたことは本当に止めた! 僕はあいつとは、もう手を切った!
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左方へ逃込み、退場。
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小野 おい! 待て! 待て! 清原! 待てと云
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