……くれぐれも我々の受けたあの侮辱《ぶじょく》だけは忘れないようにしなさいよ。不潔な血を流すことはたやすいことだが、我々はそんな他愛もない復讐はいさぎよしとしないのだ。お前は平安の都に残って、孜々《しし》として勉学にはげみ、立派な学者となる。私は東国の任地に赴《おもむ》き、武を練り、人格を磨いて、立派な武人となる。そうして、いつの日にか二人がまたこの地で相まみえる時があるとすれば、その時こそ、大伴ノ御行は必ずや地下人《じげびと》かさもなければ、それ以下の庶民《しもびと》にまで失墜《しっつい》するであろう。………(中央を向き、感慨深く)ああ、平安の都もどうやらこれでしばらくは見納めなのだな。………さて、いつまでぐずぐずしていてもきりがない。では、文麻呂、儂《わし》は出掛ける!
文麻呂 じゃ、お父さん! お気をつけて!
綾麻呂 お母さんのお墓参りだけは決して欠かさないようにしなさいよ! じゃ、元気で勉強しなさい! それから、瓜生《うりゅう》ノ衛門《えもん》だが、あれはもうだいぶ年をとってしまったから、あまり役には立たんだろうが、ま、よく面倒をみておやりなさい。あれだけはいつも変らぬ我々の忠
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