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文麻呂 (厳然たる姿勢をとる)御機嫌《ごきげん》よろしく、お父さん!
綾麻呂 臣、石ノ上ノ綾麻呂、今、無実無根の讒言《ざんげん》を蒙《こうむ》って、平安の都を退下《たいげ》し、国司となって東国に左遷《させん》されんとす。………文麻呂いいか? もう一度、返答だ!
文麻呂 はいッ!
綾麻呂 勲《いさお》高き武人《もののふ》の家系、臣、石ノ上ノ綾麻呂から五位の位を奪いとった我等が仇敵《きゅうてき》は?
文麻呂 (凜《りん》たる声)大納言《だいなごん》、大伴《おおとも》ノ宿禰御行《すくねみゆき》!
綾麻呂 巧みなる贈賄《ぞうわい》行為で人々を手馴《てな》ずけ、無実の中傷で蔵人所《くろうどどころ》の官を奪い、あまつさえその復讐《ふくしゅう》をおそれて、臣、石ノ上を東国の果《はて》に追いやった我等が仇敵は?
文麻呂 大納言、大伴ノ宿禰御行!
綾麻呂 あるいはまた、その一人息子、文麻呂の出世を妨げんとて、大学寮内よりこれを追放し、より条件の悪い別曹《べっそう》、修学院などへと転校せしとめたる我等が仇敵は?
文麻呂 大納言、大伴ノ宿禰御行!
綾麻呂 よし!
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