しまったんだ。……君は、第一、そう云う噂《うわさ》を耳にしたことはないのかい? 大学寮なんかでもみんなそう云ってるんだぜ。僕あ、御修法《みずほう》をやるお医者さんにも訊《き》いてみたんだ。もう、ああ云うふうに病気が進行しちゃったらおしまいだそうだ。いくらお祓《はら》いをしてみたところで、決して物《もの》の怪《け》は退散しないんだそうだ。
小野 清原!……(真剣な顔)貴様、……本当にあの男の発狂を信じてるのか?
清原 ………
小野 え! 清原!……貴様はそんな噂を本当に信じてるのかい!
清原 む、……信じてる。そりゃ僕だって初めはそんなこと信じられなかったさ。だけど、色んなことを綜合して考えてみると、まああいつには気の毒だけど、……僕もそう断定せざるを得ないんだ。第一、あんな恰好《かっこう》をして都中をほっつき歩いていることからして、訝《おか》しいとは思わないかい? いくら人目を避ける変装だからと云ったって、あれは少々極端だ。あいつは確かに気が変になってしまったんだよ。あの勉強家の秀才が勉強もそっちのけで、あんな妙な恰好をして、都中を一日中ほっつき廻ってさ、口に出すことと言ったら、なよた
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