君が逃げ出したって、後指《うしろゆび》をさすものは世の中に俺と石ノ上の二人しかいないからな。だけど、俺は断言するぞ。貴様のはそりゃ弱音《よわね》だ。そんな理窟は貴様の弱音に過ぎん。……まあ、考えてもみろ。利己主義なのはむしろ貴様の方だ。自分に都合《つごう》のいい時だけは生死を共にするって云うような顔をして、自分に都合が悪くなって来ると、偉そうな言訳を並べたてて、……このざまだ。清原。そりゃ、俺達はまだ青二才《あおにさい》の学生さ。誰だって、自信なんか持っちゃいない。と云うよりは、むしろこの激しい世間の風当りが息苦しくってしようがないのだ。俺だってそうさ。石ノ上だってそうさ。……だがね。清原。そんな意気地のない弱腰な態度で、俺達は黙って世間の風当りを避けてばかりいていいもんだろうかね?……そりゃ、若い俺達のやることだ。失敗はあるだろう。しかし、失敗なんてものは物の数ではないよ。問題は実行すると云うことだ。俺達は敢然《かんぜん》と実行する資格だけは持ってるんだからな。あらゆる可能性をためしてみる資格だけは持ってるんだからな。そうじゃないかな、清原?
清原 (不貞腐《ふてくさ》れて聞いている
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