軽蔑しよう。……俺は恋なぞと云う愚劣《ぐれつ》なものは全く信用しないからな。俺は大体、「夢想家」と云う奴は軽蔑するんだ。……しかし、清原。俺には分らん。……君は親友との盟約《めいやく》を裏切ってまでも、この計画から逃げ出したいって云うのか?
清原 (だんだん上《うわ》ずって来る)だから僕はなよたけをあいつにゆずると云ってるんだ。石ノ上は今ではなよたけに夢中なんだ。……僕には分る。なよたけも僕は嫌いだけど、あいつだけは好きらしいんだ。……それに、第一、今度のことはもともとあいつがひとりで勝手に決めてやり出したことなのさ。大納言様を失脚させようと云うあいつの利己主義がやり始めたことなんだ。……僕あ、あの頃はなよたけが好きだったから、誘われるままにひきずられて一緒にやり出したけれど、……だけど、あいつは今では僕の恋までも横取りしてしまったんだ。あいつは僕には黙って毎日夕方になるとなよたけとこっそり媾曳《あいびき》をしてるんだ。僕にはもう一緒にやる理由がなくなってしまった。……なよたけはあいつのものなんだ!……
小野 (鋭く)清原。……なかなかうまい理窟《りくつ》を云うじゃないか?……そりゃ、
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