いか、小野。こんなことをしてたら、今に僕達はどんな眼に遭《あ》うと思う?……例えばさ、僕達が石ノ上と一緒になってこんなことをしてるなんてことが大納言様のお怒りに触れて見たまえ。僕達までが石ノ上と同じように大学寮を追っぱらわれてしまうかもしれないんだぜ。……
小野 (じっと清原の顔を凝視《みつ》め)清原。……貴様、恋が醒《さ》めたな?
清原 恋は石ノ上の心にのりうつってしまった。恋の炎《ほむら》は今では石ノ上の心の中に燃えさかっている。僕の恋はしらじらと醒めきってしまった。……小野。僕あ白状する。……僕あなよたけが好きじゃなくなっちゃったんだ!……(顔を伏せる)
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間――
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小野 (妙に調子を変えて)……清原。……君があの烈しい恋の酩酊《めいてい》から醒めたからって、……別に俺が君に対して何を云うことが出来よう?……かしこ過ぎて、ここ現実《おつつ》の園に戻り来《きた》れば、何事もみなはかなき[#「はかなき」に傍点]一炊《いっすい》の夢だ。……俺は実は今まで心の中で君を軽蔑していたが、今度は石ノ上を
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