御婦人達は……
女5 あら、あたし達は大丈夫ですわ。みんなこうして、一人残らず、ちゃあんと葵の鬘《かずら》と蘰《かずら》をつけておりますもの。(仲間の女に同意を求め)ねえ?
男9 (笑って)いや、冗談です。冗談ですよ。……
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誰も気が付かぬ間に、左端にふと、石ノ上ノ文麻呂が現れた。
揉烏帽子《もみえぼし》を被《かぶ》り、いかにもみすぼらしい下人《しもびと》の装束《しょうぞく》で、立っている。
葵の物忌は、彼だけはつけていない。
遠のいて行く験者達の呼ばい声の方に何やら吸い寄せられるような眼差《まなざし》を向けて、立っている。

吐菩加美 ほッ 依身多女 ほッ
吐菩加美 ほッ 依身多女 ほッ
…………………
…………………
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[#地付き](次第に遠く)
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灰色の上下幕が静かに下る。――
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     第二場(上下幕の前面にて)

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行者達の魂ごいの呼ばい声・鈴の音は遠く消え去り、取り残されたように神楽《かぐら》の笛の音が微《かす》かにしている。左手より清原《きよはら》ノ秀臣《
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