を横に振る)
なよたけ (険しく)こがねまる!……お前にも悪いあんなあな[#「あんなあな」に傍点]が取《と》っ憑《つ》いてしまったわ。
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皆、気味悪そうにこがねまるを凝視める。
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雨彦 けらおが都から連れて来たんだ!
胡蝶 (なよたけにすがりつき)なよたけ、……あたし、こわい!
みのり (これもすがりつき)あたしもこわい!
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こがねまる、烈しい泣きじゃくりを始める。
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けらお おらじゃねえよ! おらじゃねえよ!
蝗麻呂 けらおのあんなあな[#「あんなあな」に傍点]!
雨彦 こがねまるのあんなあな[#「あんなあな」に傍点]!
なよたけ お前達は黙ってなさい!……(近寄って、優しく)こがねまる。……お前はただ、ちょっと忘れちゃってたのねえ? うっかりしてて、自分の悪いことに気がつかなかったのねえ? そうでしょう?
こがねまる (うなずく)
なよたけ じゃ、いい? こがねまる、……毛虫は大きくなったら何になるんだったかしら?
こがねまる (泣きじゃくりながら)……蝶々《ちょうちょ》……
なよたけ そうね。……じゃ、こがねまるは蝶々が好きじゃないの?
こがねまる (首を横に振る)好き……
なよたけ じゃ、その蝶々をなぜ殺したの? 毛虫を殺すのは蝶々を殺すのと同じことでしょ?……御覧《ごらん》! 可哀《かわい》そうに……今は毛むぐじゃらで、あんまり可愛《かわい》らしくないけど、もうすぐさなぎから美しいあげはになって、今度は広いお空をひらひら飛ぶことが出来たのに!……綺麗《きれい》なあげはにもなれないでこんな毛むぐじゃらのまま死んでしまった。……
こがねまる (おいおい泣く)
なよたけ 分ったでしょ? こがねまる……分ればいいの。毛虫を殺したのはこがねまるじゃなくて、悪いあんなあな[#「あんなあな」に傍点]だったのね?……こがねまるだってけらおだって、誰だって本当はみんないい子なのよ、とてもいい子なのよ。こんなにいい子なのに悪いことをするのは、知らぬ間にあんなあな[#「あんなあな」に傍点]がお前達に取憑《とりつ》いてしまうからよ。さあ、もう泣くのはお止め!……お前のその涙が立派な証拠《しょうこ》だわ。自分の悪かったことに気がつきさえすれば、もうそれでいいの! 死んだ毛虫さんもきっと許してくれるに違いないわ! さあ、こがねまる。泣くのはお止め! お前はもう悪い子じゃなくなったの!
けらお (頭上を見上げ、突然、一種の畏怖《いふ》にとらわれたように叫ぶ)あッ! 蝶々だ! 蝶々だ! あんなにたくさんあげはが飛んで来た!
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右手の方から、無数の蝶が、群をなして飛んで来たらしい。皆いっせいに頭上を見上げる。
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雨彦 あ!……こがねまるが毛虫を殺したんで、怒ってやって来たんだ!
蝗麻呂 こがねまるをうらみにやって来たんだ!
けらお (叫ぶ)おらじゃねえよ! おらじゃねえよ! 毛虫を殺したのは、おらじゃねえよ!
こがねまる (助けを求めるように、泣声で)おら、本当に殺そうとしたんじゃないやイ。……おら、あんなあな[#「あんなあな」に傍点]に騙《だま》かされたんだイ。知らない内にいつの間にか殺しちまったんだイ。……おら、毛虫が憎《にく》らしくも何ともなかったんだ。……知らねえ内にあんなあな[#「あんなあな」に傍点]がおらの足にのりうつっちゃったんだ。おらがつぶしたんじゃないやイ。……あんなあな[#「あんなあな」に傍点]がつぶしちゃったんだイ。おら、何にも知らねえうちに……
けらお 行っちゃったよ。
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蝶の群、左の方に消えたらしい。みんな、遠く左方を見上げてほうとしたように立っている。
間――
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胡蝶 (ふと、地面を見て)あらッ! みんな見てごらん! ほら毛虫さんが動き出したわ。………
みのり あ! ほんとだ! 毛虫さんが生き返った。……
こがねまる (悦《よろこ》びに溢《あふ》れて)なよたけ! 毛虫は死んじゃいないや! ほら! ひょこひょこ歩き出したよ!……なんだ、こいつ死んだ真似《まね》してたんだな。………
なよたけ (嬉しそうに)そうじゃないわよ。……お前が悪かったことに気がついて、本当のことをちゃんと白状したから、お天道《てんとう》様が生き返らせて下さったのよ。きっと、そうよ。お天道様はいつでもいい子の味方をして下さるんだわ。悪いことをしても、ちゃんと白状して、自分で本当に悪かったと思え
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