ば、いつでも許して下さるのよ。……御覧! お天道様があんなにきらきら輝き始めた。……お天道様はいい子のいる所だけしか輝かないの。悪い子が一人でもいると、御機嫌が悪くなって、曇ってしまう……。みんな、あんなあな[#「あんなあな」に傍点]に取っ憑かれて、悪いことをしたら、すぐに白状して、心を入れかえるのよ。分った? そうすれば、お天道様はいつでもあたし達から悪いあんなあな[#「あんなあな」に傍点]を追っ払って下さる。……あんなあな[#「あんなあな」に傍点]がいなくなってしまえば、世の中がどんなにしあわせ[#「しあわせ」に傍点]になるか分らないわ。そうすれば、もうあたし達は、つまらない事で一々あやまったり、心を入れ代えたり、こせこせ気を使ったりする必要はちっともなくなるのよ。……御覧! この数え切れない竹の木のどれにだって、あんなあな[#「あんなあな」に傍点]はちっともいないのよ! いつまでもいつまでも緑色に輝いて、……お天道様のおっしゃる通りにじっと身を委《まか》せている。……お天道様と同じ心を持って、しあわせで一杯になっている。……お前達もあたしもみんなこの竹の林の中に生れた。この竹の林の中で育った。あたし達はきっといまにこの竹の林の中で、とてもしあわせになれるのよ。あんなあな[#「あんなあな」に傍点]なんてもうどこにもいなくなって、……どうしたらいいのか分らなくなるようなしあわせがやって来るのよ。
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さまざまな小鳥達が思い出したように美しい声で囀《さえず》り始めた。
春の陽光は眼覚めるばかりにその輝きを増し、緑色の木洩日《こもれび》の耀《かぎろ》いは一段と鮮《あざ》やかになって行く。子供達は何やらみな一様に眼を輝かして、太陽を仰ぐ。
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なよたけ 御覧!………ほら。あのお天道様のいらっしゃる限りもなくひろいひろいお空は、あたし達のいるこの竹林にまでずーっと続いて来ているのよ。あたし達はみんなお天道様のもの。なんでもかんでもみんなお天道様が創《つく》って下さったものよ。この数えきれない竹の木も、地面からにょきにょき生えて来るたけのこも、……雨彦! (指さして)ほら、あっちの方でちゅくちゅく鳴いている鳥はあれはなあに?
雨彦 目白! (目白の鳴声、一段と高く、ひとしきり)
なよたけ 蝗麻呂《いなごまろ》! (指さして)じゃ、向うの方でちゅんちゅん鳴いてるのは?
蝗麻呂 やまがら! (やまがらの鳴声、一段と高く、ひとしきり)
なよたけ こがねまる! こっちの方で、ひーよひーよって鳴いてるのは?
こがねまる ひわ! (ひわの鳴声、一段と高く、ひとしきり)
なよたけ けらお! 今度は、ほら、あっちの上の方で、ちちちち ちろろって鳴いてるのは?
けらお ほおじろだイ。(ほおじろの鳴声一段と高く、ひとしきり)
なよたけ 胡蝶《こちょう》! ほら、ほら!……向うの方からぶーんぶーんってこっちへ飛んで来る小さなものはなあに?
胡蝶 あ! みつばち! みつばち! みつば………
なよたけ 逃げなくったって大丈夫! こっちでおいたをしなければ蜜蜂《みつばち》は決して刺《さ》したりなんかしないわ。……ほら、行ってしまった。……蜜蜂さん!……綺麗《きれい》なお花の咲いてる処《ところ》には悪いあんなあな[#「あんなあな」に傍点]がたくさんいるからお気をつけ!
みのり (突然、不可解そうに)なよたけ! なよたけ! あれは何! ほら! あれは何!(空中を指さしている)
なよたけ どこ?
みのり ほら! そこにほら!……飛んでいる。
なよたけ ……見えないわ。
みのり (飛び上って、空中から何かをつかむ)
なよたけ 何を捕《と》ったの、みのり?
みのり (掌《てのひら》をひろげてみせる)
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わらべ達も、みんなのぞき込む。
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雨彦 なんだ。……たんぽぽの種子《たね》だ。
なよたけ まあ、新しいたんぽぽを咲かせるために、ちいさい種子がこんな処《ところ》まで飛んで来たのね。……みのり! 空へお飛ばし! お天道様が一番いい所へ連れて行って下さるわ。
みのり (空へ向って吹き飛ばす)
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みんな、嬉しそうに、たんぽぽの種子の飛んで行く方を見上げる。
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なよたけ 飛んで行け! 飛んで行け! 微風《そよかぜ》に乗って飛んで行け!……誰《だれ》も知らないしあわせな所へ飛んで行って、綺麗なお花を一杯咲かせておくれ!
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わらべ達、その行方を見上げながら、誰からともなく「唄」をうたい始める。
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