頭の上に花籠をのせた花売の乙女《おとめ》二人、左より右へ。
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乙女1 花はいらんしょか? 花はいらんしょか?
乙女2 葵《あおい》の花はいらんしょか?
乙女1 葵の鬘《かずら》はいらんしょか? (右へ退場)
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入れ代りに右より登場した若い男。中央辺にてふと立止り、右手花売の乙女達の方をふり向いて、思案する。突然、衝動的に、頭の葵の鬘をむしり取り、ぽいと投げ棄《す》てるや、足早にもと来た右方へ逆戻り。
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女1 (右より、憂鬱《ゆううつ》顔で)ただ、妙《みょう》に頭が痛《いた》むのです。
男3 御修法《みずほう》をやっておもらいなさい。……北山の何とか云うお寺にとてもかしこい行者《ぎょうじゃ》さんがいるそうです。……ただ、この人は評判は非常にいいけど、(指で輪を作り)こっちの方をだいぶ高くとるらしいのでね。……それだけがどうも。
女1 でも、そりゃ、病気には代えられませんわ。
男3 とにかく、それは死んだ行平《ゆきひら》の物《もの》の怪《け》ですよ。確かにそうです。……全く執拗《しつこ》いったらありゃしない……(左へ退場)
女2 (左より)大体、男って横暴すぎると思うわ。そんなことって本当にあるでしょうか?
女3 でも、私達女は昔からそう云う運命なんですもの。仕方がないと思うわ。「宿世《すくせ》と云うこと、ひく方|遁《のが》れわびぬることなり」って、どなただったか忘れたけど、おっしゃってるじゃありませんか? どれもこれもみんな「さるべき契《ちぎ》り」なのだと思って諦《あきら》めてしまえば別に悲しいこともないわ。
女2 まあ、そう云うことを云ってるから、男達がつけ上るんだわ。駄目よ、そんなこと云ってちゃ。あたしは断然反対だわ。あんたのようにそう物事を消極的にばかり考えてたら、いつまで経《た》っても私達女は浮ぶ瀬がないじゃないの。(右へ退場)
男4 (左より)「何をこの新発意奴《しんぼちめ》が!」といきなりこう来るんです。お話になりゃしません。……怒る気にもなれませんよ。
男5 まあまあ、そこんところをじっと我慢して、黙って待っておりさえすれば、……そりゃ……あなた、なでしこの君にしたってやがてはあなたの心が分
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