が輝き始める。………
これが次第に烈《はげ》しく繰返される。二人、狼狽《ろうばい》して、為《な》すことを知らず。
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文麻呂 (不安そうに空を見上げ)なんだか妙な天候になって来ましたね。……
なよたけ (突然わらべ達に)みんな! 教えて頂戴! あたしには分らなくなってしまった。……この人達は一体誰なの!
雨彦 (空を見上げ)なよたけ! あんなあな[#「あんなあな」に傍点]だ!
わらべ達 あんなあな[#「あんなあな」に傍点]だ! あんなあな[#「あんなあな」に傍点]だ!
文麻呂 (訝《いぶか》しげに)どう云う意味なのです。……そのあんなあな[#「あんなあな」に傍点]って云うのは?
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[#地から1字上げ]――幕――
第三幕
第一場
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都大路《みやこおおじ》の一廓《いっかく》。……とある辻広場。
葵祭《あおいまつり》の日の午後。うららかな五月の祭日和《まつりびより》である。
舞台の両端には美しい花の咲き乱れた葵の茂みと小柴垣《こしばがき》がある。
そぞろ歩きの平安人達が、あるいは左から右へ、あるいは右から左へと、会話をしながら往来する。その他、無言の通行人、行商人等も多勢往来する。
誰《だれ》も彼もが華《はな》やかに着飾《きかざ》り、それぞれ美しい花のついた葵の鬘《かずら》をかけて、衣裳《いしょう》には葵の蘰《かずら》をつけている。……
遠くで、神楽《かぐら》の笛がひびいている。街は人々のさざめきに充《み》ち溢《あふ》れている。
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男1 (右より)ええ、そこを偶然この私が通りかかったと云うわけなのですよ。
男2 ほう。……それはまたこの上もなく運がよろしゅうございましたねえ。
男1 ええ。もう、何と云いますか、あたりは夕靄《ゆうもや》に大変かすんで、花が風情《ふぜい》あり気《げ》に散り乱れている。……云うに云われぬ華やかな夕方でした。……私も実はなぜかしらず心が浮き浮きしていましたもんで、……あの女《ひと》がすーっと簾《すだれ》を巻き上げて、こちらの方をちらっと見られた時の、そのかおかたちの美しさと云ったら、……それこそもう……(二人左へ退場)
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