が並んで立っている。なよたけの和琴の音は、右手の竹簾《たけすだれ》の向うの奥の間から聞えて来るらしい。………
「唄」が終ると、なよたけの弾《ひ》いている美しい和琴の音だけがひびき残る。………老爺《ろうや》はさらさらと竹籠を編んでいる。
わらべ達も黙ってそれをみている。
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造麻呂 (ふと、編む手を止めて、不審《ふしん》そうに)おや? 何じゃ? 裏の納屋《なや》の方で妙な音がしなかったかな?
わらべ達 (きょとんとしている)
造麻呂 なよたけ!
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なよたけの琴の音、止む。
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造麻呂 ……お前、今、裏の納屋の方で妙な音が聞えなかったかい?
なよたけ (声のみ)……いいえ。
造麻呂 なんだか確かに聞えたような気がしたんだが………
なよたけ (声のみ)またりす[#「りす」に傍点]の子がゆすらうめの実でも食べに来たんでしょう。
造麻呂 (半ば独白)……りすならいいんだが、……この頃は都の人間たちまでが、この辺にうろうろし出したからな。(再び籠を編み始める)………物騒《ぶっそう》でしようがない。
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沈黙――
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なよたけ (声のみ)雨彦!……お前、ちょっと行ってみて来てごらん!
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雨彦と呼ばれた少年は「ん」と云って、一目散に裏の方へ駆《か》けて行く。他のわらべ達は一様に彼を見送って、何か心配そうにしている。
雨彦、しばらくして、また一目散に駆け戻って来る。
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雨彦 誰もいない。りす[#「りす」に傍点]もいない。ちゃんと戸が閉まってる。
造麻呂 ふむ、………儂《わし》の空耳だったのかな?……どうも、年をとってしまったもんじゃ。
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造麻呂は再び一心に竹籠を編み始めた。またなよたけの琴がなり始める。……同時にわらべ達は一様に退屈《たいくつ》し始める。
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こがねまる (つまらなそうに)……なよたけ! また外へ出て遊ばない?
みのり(少女) 出ておいでよ、なよ
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