たけ!
けらお なよたけ! お出でったら!
胡蝶《こちょう》(少女) なよたけ! 今のうちじゃないと、またお天気が悪くなるわよ!
蝗麻呂《いなごまろ》 ほら! 来てごらん! お日様を邪魔《じゃま》する雲がひとつもないや!
雨彦 なよたけ! 竹林はとても静かだよ! 今日も悪いことは何も起りゃしないよ!
けらお おいでよ! おいでったら!
わらべ達 (一緒に)おいでよ! おいでよ!
こがねまる 琴なんていつだって弾《ひ》けるじゃないか!
みのり そうよ、そうよ!
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なよたけ、一向に返事をしない。
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けらお (ひねくれて)なよたけのあんなあな[#「あんなあな」に傍点]!……(他の者を誘う)おい、みんなも云えよ、なよたけはあんなあな[#「あんなあな」に傍点]だい!
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他のわらべ達、黙っている。
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けらお なんだい。みんなも一緒に云えったら。……(大声で)なよたけのあんなあな[#「あんなあな」に傍点]! なよたけのあんなあな[#「あんなあな」に傍点]!
造麻呂 うるさい子だね。
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竹簾《たけすだれ》が上った。その向うになよたけが立っている。田舎娘だが、天使のごとき清楚《せいそ》な美しい少女である。
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雨彦 あ! なよたけだ!
わらべ達 (悦《よろこ》びに心|震《ふる》えて。思い思いに)なよたけ! なよたけ!………
こがねまる ね、行こう!
蝗麻呂 さ、行こう!
けらお 遊びに行こう!
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二、三の者は戸外に駆け出る。
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なよたけ (草履《ぞうり》をはきながら)静かにしなければ嫌《いや》。うるさくする子はもう遊んであげない。……お父さん。また、みんなと一緒に遊びに行って来るわ。
造麻呂 (仕事を続けながら)あんまり遠くへ行ってはいけないよ。……春になってからと云うものは、お前のお尻《しり》をつけねらう色男が四人や五人じゃきかないんだから。……まったく物騒と云ったらありゃしない。
なよたけ すぐその辺。
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