ので、何だか恥しそうにする)………そうかな?
文麻呂 うん。変った。……第一、言うことに飛躍《ひやく》がなくなった。弾力がなくなった。知性の閃《ひらめ》きがなくなったよ。……「竹が囁いてるんだ……」。情無いことを云うじゃないか。……まるでもう君は萎《しな》えうらぶれている。……以前のあのうち羽振《はぶ》く鶏鳴《けいめい》の勢いは皆無だ。剣刀《つるぎたち》身に佩《は》き副《そ》うる丈夫《ますらお》の面影《おもかげ》は全くなくなってしまった。
清原 (急に心配そうに)石ノ上……。僕あね、心配なんだよ。僕達のこの計画がかえってなよたけを怒らしちまうんじゃないかと思って………
文麻呂 また!……僕はもう、そんな意気地のないことを云うんだったら、君に構わず自分だけで勝手にどんどん事を運んでしまうぜ。……何度も云ったけど、これは確かにこの上もない天の配剤なんだ。君の目的と僕の目的が全く一致する……これは単なる偶然じゃないんだ。僕はそう確信している。これは天が我々に味方したんだ。……そうは思わないかい?
清原 うむ………
文麻呂 (苛々《いらいら》して)さあ、元気を出そう、元気を! 天が与えてくれたこの機会を利用しなければ、君の恋も、僕の復讐《ふくしゅう》も、一生涯《いっしょうがい》実現出来ないようなことにならないとも限らないんだぜ。さあ! 肚《はら》を落着けて待とう、待とう! 大納言を恋と名声から失脚させるには我々の智慧《ちえ》の外に、最大の勇気と云うものを必要とするんだ。何よりもまず第一に肚だ。肚を落着けて、心静かに待とうじゃないか!……何でえ、しっかりしろよ! (いきなり両手で両膝《りょうひざ》を抱え込む)
清原 (……これも文麻呂の真似《まね》をして、両膝を抱え込む)
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長い、気まずい沈黙。
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文麻呂 (再び沈滞した空気を振払うかのように)ああ、とにかくこれはすごい竹の木だな。……それにしても、この素晴らしく延びた幹はどうだ。……ねえ、清原。こいつは確か孟宗竹《もうそうちく》と云う奴だよ。話によるとこの竹の苗は奈良朝の初期に唐《から》の国から移植されたものらしいんだが、三百年足らずの間にどうだ、この東の国の一劃《いっかく》にも、このように幽麗な叢林《そうりん》を形成してしまった
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