はないか? え?……時を見計って、決行するのだ。我々の方はすっかり覚悟は出来ているんだから、たとえ万一ここでばったりと大納言にぶつかったとしたって何等《なんら》狼狽《ろうばい》することはない。堂々と計画通りに我々の初志を貫徹するまでの話だ。なあ。清原。そうだろう!
清原 (自信なさそうに)うむ………
文麻呂 まったく煮え切らないね、君と云う奴は。……それだからみんなに云われるんだよ。当節の若い学生はなんだかんだって。……口先だけで屁理窟《へりくつ》をこねるのがいくら巧《うま》くたって、実行力のない人間はあるかなきかのかげろうだ。なあ。そうだろう?
清原 うむ………
文麻呂 僕は君に限ってそんな意気地のない男とは信じたくないんだ。君だけはそう云う軟弱な知識階級の若様連中と同列に置きたくないんだ。分るだろう?
清原 うむ………
文麻呂 (苛々《いらいら》して)さあ、清原。坐ろう、坐ろう! 坐って大納言を堂々と待伏せするんだ! (ぺったりと坐る)……坐れよ!
清原 (渋々《しぶしぶ》と彼の隣に坐る)
[#ここから2字下げ]
長い、気まずい沈黙。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
文麻呂 (沈滞した空気を振払《ふりはら》うように)ああ、何と云う静けさだろう。………ねえ、清原。ほら。聞えないかい?……時々、あちこちから、かさかさ、かさかさって妙《みょう》な音が、まるで神秘な息づかいのように聞えて来るんだ。………
清原 (あまり感興もなさそうに聞く)
文麻呂 (慎重に、耳を澄まし)ねえ、おい。……あれは一体何だろう?
清原 (しごくあっさりと)竹の皮が落ちてるんだ。………
[#ここから2字下げ]
間――
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
文麻呂 そうか……若竹がすくすくと成長して行く音だったんだな? ひそやかな生成の儀式のかすかな衣《きぬ》ずれの音だったんだな?
清原 (さり気なく)竹が囁《ささや》いてるんだ。……………
[#ここから2字下げ]
間――
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
文麻呂 (情無さそうに清原を凝視《みつ》め、ややあって)清原。……君は変っちまったねえ。つくづく僕はそう思うよ。本当に変っちまった。……
清原 (文麻呂にあまりまじまじと見られる
前へ
次へ
全101ページ中19ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
加藤 道夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング