よたけのお父さんではないのですか? あの竹籠《たけかご》作りの讃岐ノ造麻呂ではないのですか?
竹取翁 讃岐ノ造麻呂ですじゃ。儂は讃岐ノ造麻呂ですじゃ……
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間――
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文麻呂 それじゃ、貴方もあの大納言の手先なんですね? お爺さん、貴方も皆と一緒になって僕を騙そうとしているんですね? なよたけはどこに行ったんです! なよたけはここには帰って来なかったんですか! お爺さん! せめて、それだけでもいいから教えて下さい! なよたけは一体どこにいるんです!
竹取翁 なよたけ?
文麻呂 なよたけです。貴方の美しい娘です。……あなたの美しいなよたけです。
竹取翁 (独白)……儂《わし》の美しい娘……儂のなよたけ……(不意に面を上げると、しげしげと文麻呂を眺め、異様な熱情で)……おう、御存知なのか? 貴方は御存知なのか? 儂の夢を御存知なのか?……貴方はあのなよたけの赫映姫《かぐやひめ》の話を聞きたいとおっしゃるのじゃな? あの昔からのいいつたえを信じて下さると云うのじゃな?
文麻呂 いいつたえ?
竹取翁 この竹の里のいいつたえですじゃ。儂だけが知っているなよたけの赫映姫《かぐやひめ》の語りつたえですじゃ。儂の夢ですじゃ……
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合唱 (静かに聞え始める)
いつの世の昔語りや、……
いつの世の昔語りや、……
竹取りの翁《おきな》ありけり。
竹取りの翁ありけり。
竹取翁、静かに身を起して、立上る。白銀《しろがね》に輝く手斧を片手に、静かに文麻呂の方へ歩み寄って来る。
いつの世の昔語りや、……
いつの世の昔語りや、……
竹取りの翁ありけり。
竹取りの翁ありけり。
竹や竹 竹山に
なよ竹を取る なりわいに
なよ竹を編む なりわいに
さらさらに我名は立てじ、よろずよや
万世《よろずよ》までにや 竹を編む。
これはしも 常春《とこはる》の
これはしも 常春の 伝えの里に
さやけき緑 絶ゆるなし
なよ若竹の 伝えの里に
さやけき緑 絶ゆるなし
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竹取翁 (文麻呂の真近に来て)儂《わし》はもう世の中にはあの話を信じてくれる人は一人もおらぬと思っておった。なよたけの赫映姫はこのまま誰にも知ら
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