の一人は打消した。
 ――私は信じよう、お麗さんは芸術の理解者なんだ、待ちぼうけを喰はすやうなことはないよ。
 すると又一人がその尾について
 ――大丈夫来て呉れるよ。わざわざこの室まで借りて準備をすつかりしたことを知つてゐるんだし、あれほど堅い約束もあるから。
 しかし約束の時間から三十分も経つたが彼女の姿が見えなかつた。
 ――それ見ろ、お麗さん逃亡さ。
 私は冷やゝかに一同を嘲笑した。
 仲間は、不安な気持でがや/″\と話しながら彼女を待つてゐた。
 ――おい諸君。お麗さんは風呂に入つてゐたよ。
 頓狂を声をあげて、蘭沢が飛込んできた。
 仲間は小さな歓声をあげた。
 私はぎくりとした。彼女がそれほどに、芸術を愛してゐるとは信じてゐなかつたのに幸彼女が現れたからであつた。
 私はしかしお麗さんがモデル台に立つまではどうしても信ずることができなかつた。

    (四)

 お麗さんは私達を一時間もまたした。
 蘭沢が女湯を覗きに行つてみると、お麗さんが姿見の前で両肌をぬいで白粉をぬつてゐたといふ。
 ――困つたことが出来たよ。念入りに厚く塗つてゐるんではないか。モデルが白粉をぬる
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