裸婦

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)陽炎《かげろふ》のやうに

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)シラコ[#「シラコ」に傍点]といふ

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ぽたり、/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
−−

    (一)

 或る雪の日の午後。
 街の角でばつたり、お麗さんらしい背をした女とすれちがつた。
 女は鼠色の角巻を目深に、すつと敏捷に身をかはしたので、その顔は見えなかつた。
 ――彼女だ、たしかにあの女にちがひない。
 私は断定した、同時にぎくりと何物かに胸をつかれた。
 彼女は雪路を千鳥に縫つて、小走りに姿を消してしまつた。
 ――あの女の素裸を見たことがあるのだ、勿論一物も纒はない、ほんとうの素裸さ。
 私は彼女の通り過ぎた後を振りかへつて、いひしれぬ優越感を覚えたのであつた。
 女達は実際美しい。
 着飾つた彼女達が、街をいりみだれて、配合のよい色彩の衣服をひるがへして往来してゐる姿は、まつたく天国だ。
 黒い雲がすつと走り、急に曇天となり、空の一角
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