子になつてゐた。その硝子に紙張りをして芸術家以外の出歯亀が、外から覗かれないやうにした。
室には二箇所に、ストーブを据つけ、煙筒も燃えてしまふほど石炭をしつきりなしに投《はう》り込んだ。
室の一隅に桃色のカーテンを長く垂れて彼女がその中で衣服を脱いで現れてくるやうに設備をした。
お麗さんは素人娘であつた。
彼女は処女であると、蘭沢を始め、仲間は力説した。
画家達は、彼女がまだ着物を脱ぎもしないうちから、もうすでに感激し興奮してゐた。
――芸術のために、我々の芸術のために彼女が裸体になつてくれるのだ。
なんといふ彼女は大きな理解をもつてゐるのだらう。
新らしい油絵具も買つてきた。
新らしく画布も張つた。
すべての準備はとゝのつた。画家達は、お麗さんの麗しい姿を、感謝の心で迎へるばかりとなつた。
第一日目の日。
彼女が最初のモデル台に立つ日。
私の仲間が九人、研究室のストーブを破れる程に、石炭を燻べて室を温め、画架を林のやうに立て彼女の出来《しゆつらい》を待つてゐた。
彼女はなか/\研究室に姿を見せなかつた。
――女は怖気がついたのさ。
私がかういふと、仲間
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