、実体を拡大するといふ単純な考へに捉はれて仕事をしてゐる美術家が近頃すこぶる多いのである。ティントレットのパラダイスの絵画は五十呎乃至百呎の距離に適はしく出来てゐる。つまり見るに適当の距離を必要とする程の大きさに表現されてゐるわけだ。だがこの絵は而も近づけば近づく程より立派に見える程鋭敏に色彩づけられてあるさうである。
岩井の絵の物の拡大は離れて見ては物の実感を一応我々に与へてくれる。然し近よつて見ると、如何にも誇張感たつぷりの描写であることが判る。物の形の量に答へるだけ、その質が充実されてゐるかどうかといふことが、岩井の絵の場合問題になるだらう。岩井の絵の物の拡大の方法は、彼が一応写実主義者であるだけ一層描いてゐるものに矛盾が現はれてゐる。誰かがその矛盾を指して岩井の絵は面白いといふのであれば私は何をか言はんやである。岩井の絵には見るものに与へる感じは、厳粛さといふよりも、滑稽感である、殊に『婦人像』などにはその感がふかい。他人は良く岩井弥一郎の絵を指して、彼の絵が素朴であるといひ、ある人はアンリー・ルッソー的だといつてゐたが、私は岩井の絵を他人のいふ程素朴な画風とは見てゐない。む
前へ
次へ
全419ページ中252ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小熊 秀雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング