方は単純な弱さではないのである。殊に大智氏の線の種類のうちで『縱直線』は一種特別な解釈が加へられてゐて、この松のやうに、上にのびた直線を使つた対象物は、微細な震動的な直線としての持味がある。『力が欲しい』といつた大智氏に対する注文こそ滑稽である。大智氏は南画のことをかう語つてゐる『南画といふのは柔らかい自然主義です』と、この言葉こそ正確な南画理論と一致する言葉であらう。問題点は『柔らかい』といふことにある。何という柔らかくない硬化した南画形式の自然主義的な作品が、世上に多いことであらう。
 大智氏は稀に見る柔らかい作家なのである。だから一部の人々にとつては、その柔軟さが何か作品の欠点であるかのやうに見させてゐる。そしてもつと『力が欲しい』といふ。我国の日本画壇では『迫力』をもつて、芸術的な力量だといふ風に思ひ違ひをしてゐる。近頃どうやら、龍を描く作家が少くなつた許りの日本画壇では、それでも手を替へ、品を替へて、仁王さまとか、鷹とか、精々出来が悪くても構へがいゝといふだけで、得をするモデルを選んで描かうとする気分がまだ絶えてゐない。雛鳥を描くよりは、二羽の鶏に喧嘩をさせて『闘鶏』とでも題
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