飛びだした。
――貯金するなんて、汚い根性をだしたら承知しないぞ。
俺は一喝して、五十銭玉を彼女の手からひつたくると、ぱつと戸外に出た。
街には夕暮の沈んだ空気が漂つてゐた。俺は洋食店に飛び込んで大コップ五杯のビールを飲み充分に酔ふことができた。
――たとい五十銭銀貨一枚にしろ我々階級にとつて、貯蓄するとは大きな、陰謀でなくてなんであらう。
――私有財産を認めず。
――彼女は詐欺師、しかし偉いぞ俺は全く泥酔したり悪罵したりまた無性にうれしがつたりした。
その後ある日、
電燈の笠を拭いてをかなかつたことから俺は再び暴力をふるつた。
――泣面を見てゐられるか、カフェに行くんだ金、をだせ。
すると彼女は、めそめそ泣ながら、押入れの上の段に泥棒犬のやうによつ這ひになつて入り込んだ。
押入の天井板は、移転して来た当時、電燈の取り付けにきた電燈屋が、天井板をはづしつ放しにして帰つたが、この暗い所に手を突込んでゐたが、そこから小さな五十銭銀貨一枚を包んだ紙包を取りだした。
まるでお伽話しではないか。
その隠し場所の思ひつきのすぐれてゐることには、俺も彼女に敬意を表した。
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