粉おしろいの粉の中に隠されてあつたり、無造作に紙に包んで糸巻き代用にしてゐたりしたので、彼女の留守に家中を探したことがあつたが容易に発見されなかつた。
以前にも増て殴ることに興味を覚えだした。
――しかし自重しなければならないぞ、一撃が五十銭を生むのだ。
俺は殴ることを自重した、しかし彼女の貯へは長くつゞかなかつた。其後彼女は泣くばかりで遂に立ちあがらなかつた。
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裸婦
(一)
或る雪の日の午後。
街の角でばつたり、お麗さんらしい背をした女とすれちがつた。
女は鼠色の角巻を目深に、すつと敏捷に身をかはしたので、その顔は見えなかつた。
――彼女だ、たしかにあの女にちがひない。
私は断定した、同時にぎくりと何物かに胸をつかれた。
彼女は雪路を千鳥に縫つて、小走りに姿を消してしまつた。
――あの女の素裸を見たことがあるのだ、勿論一物も纒はない、ほんとうの素裸さ。
私は彼女の通り過ぎた後を振りかへつて、いひしれぬ優越感を覚えたのであつた。
女達は実際美しい。
着飾つた彼女達が、街をいりみだれて、配合のよい色
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