うなことがあると、ばちんと音がして、臍の緒が切断され、腹の中の赤ん坊は死んでしまふと、彼女は脅かしたのであつた。
俺は仕かたなく棚から摺鉢や片口などの重いものを、をろしてやつたり、漬物石をとつてやつたりしなければならなかつた。
重い物は男たちが持つてやらなければならないなどといふ家憲のある家庭もあるさうだが、俺はそんなことはきらひだ、殊に幸なことには彼女は俺より大力であつたから。
しかし妊娠してから女は急に力が抜けてしまつたのだ。
(四)
腹の中の子供に、聖書を読んできかしたり、ベートーベンの交響楽を弾いてやつたりする、馬鹿気た教育法がある。
これを胎教とかいふさうだ。
神様の存在をも信じられないやうな俺が、どうしてこんな電信柱に説教をする様な愚にもつかない実験を信じることができ様か。
それまではてんで鼻汁《はな》もひつかけなかつた、この教育法を、その頃から妙に真理の様にも考へさせられだした。
――ずいぶん、お飯《まんま》を喰ふぢやないか、
彼女は楽隊にはやし立てられてゐるかの様に、調子に乗つて何杯も何杯も、お替りをして喰べた。
――でも赤ん坊と二人分喰
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