砂糖をかけたのを、一日に七ツも八ツも貪り喰ひ無性にうれしがつてゐた。
俺は幸にも手籠を提てパリーの公設市場まで、買ひだしに行かなくてもよくて済んだのであつた。
それから間もなく欺されてゐることを知つた。
肺病などゝいふ上品な、はいからな病気でもなんでもなかつた。彼女は妊娠をしてゐたのであつた。
精一杯な我儘を始めた。
殴りつけようとすると、女は素早く拳骨の下に、腹を突きだした、かうすると俺が殴れないことを、ちやんと知つてゐた。
当時俺たちは極度の貧乏をしてゐたのだが、彼女は不経済にも喰べた物を片つ端しから盛んに吐きだした、そして吐き気が二ヶ月もつゞいたのであつた。
――殴るなら殴つてご覧、吐くものがなんにも無いんだから、血を吐いて見せますから。
事実血を吐かうとおもへば、吐けるらしかつた。
女の感情は、毎日猫の瞳のやうに変つた。
女などゝいふものは理由なしによく泣くものではあるが、この数ヶ月間は殊に理由なしに泣つゞけた。
この妊娠の期間、俺は彼女に馬車馬のやうに虐使された。
胎児と彼女の臍とは、長い管のやうなものでつながつてゐて、高いところに、彼女が手を挙げるや
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