激しく怒つて、男性的な一撃を彼女に喰らはした。
膳の上には革命がひらかれた。茶椀を投げつけた。茶椀は半円を描いて室中を走り廻つた。
女はかうした場合何時も無抵抗主義をとつた、寒い猫のやうに、自分の膝の中に頭を突込んで丸くなつた。
その惨めなさまが、尚更俺の憤怒の火に油をそゝいだ。
(二)
なに事についても彼女は大袈裟であつた彼女が鼻水を垂らして泣いてゐるのだけでも、もう沢山であるのに、それに涎まで加へてせいゝつぱい色気のない顔をして賑やかに泣きだした。
――殴るのも習慣になるもんですよ。
彼女は真から迷惑さうに、俺の機嫌のよい時に、顔色を窺ひ[#「窺ひ」は底本では「窮ひ」]/\かういふのであつた。
女といふものは、何程聡明であつても、何処かに愚鈍な半面をもつてゐるものである。
ときにはこの愚鈍が『女らしさ』やら『情緒』やらに掩ひ隠されてゐる場合が多いが、それは彼女達が着飾つて路を歩いてゐるときの場合だけであつて、彼女達が家庭にはいると、愚鈍のまゝに、いたるところで醜く暴露されるのである。
その時『ぽかり』と俺は一撃を彼女の頭上に――飛ばすのであるすると女は
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