野郎、真のプロレタリアは俺のやうに、金銭に敏感でなければならないんだ。
彼女はだまつてしまつた。
最近では、まつたく観念をしたものと見える、俺が金がはいると王者か騎士のやうに、街の酒場といふ酒場や、淫売屋の梯子飲みをして廻り、また財布の中に一銭の金も無くなると、乞食か墓穴掘のやうな、陰鬱な、気難かしい顔をして、ストーブの傍に立膝をしてゐる俺の姿を、彼女はひとめ見たゞけでぞつとするらしい。しかし彼女は蛇のやうにとぐろを巻いて罵つてゐる俺の仏頂面を見ることをすつかり最近では馴れつこになつてしまつた。
或る日、彼女が我々無産階級に到底ありうべからざる陰謀を企てゝゐたのを、偶然の機会から発見した。
彼女は、三日もつゞけさまに、朝の味噌汁にキャベツを使つて俺を苦しめたのである。
それは何かの復讐であつたかも知れない。
彼女は百姓の育ちであつたので青菜類をこのんだし、俺は海浜に育つたので魚類が好きであつた。
魚であれば多少腐つてゐてもよろこんだ。
それに彼女は、片意地な自我を毎朝三日もつゞけて、その椀の中にまざまざと青いものを漂はして俺を脅迫したのが、たいへん癪にさはつた。
俺は
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