信じてゐる彼女の態度はどうだ、だんだん世間なみに嘘をおぼえこみ、なんにもないところから、鶏を飛び出させたりする手品師のやうな真似を始めだした。
――真個《ほんと》うにお可笑な方ね、お金が無くなれば、乞食のやうな惨めな気もちになつてしまふのね。
彼女の観察は当つてゐた、しかし俺は決して不自然なことゝは思つてゐない。
俺は社会主義運動を始めるのだとその抱負を語つても、彼女はてんで対手にしてくれない。
――貴方なんて、生まれつきのブルジョア思想よ、どうしてそんな荒つぽい運動が出来るものですか。
副食物のこと、室内装飾のこと友人との交際のこと等色々のことに、贅沢三昧をいふことに彼女は腹を立てゝゐた。
俺が無産階級の幸福のために、その第一線にたつて、彼らとゝもに、黒パンとか、またロシアのフセワロード、イワノフの『ポーラヤアラビア』の作中に現れてくる人々のやうに、煮込みの中に白樺の皮を交ぜたものや、馬の糞の中の燕麦の粒をひろつて食べたり、人間の肉や、鼠の肉などを、喰はなければならないやうな、食物的な試練に直面した場合にも、到底堪へることが出来ない男であると考へてゐるらしい。
――馬鹿
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