怒るときでも、体を大きくゆすぶるものである。

    (三)

 水島の恋人は、皆といつしよに声をあげて、笑ひ、大げさに体をゆすぶり、いかにもお可笑くてたまらないといつた風に、体を前に屈めて、素早く、膝の上の水島の顔に接吻をしてしまつたのであつた。
 そして続けさまに、続けさまに速射砲のやうに、ちやつぷりん[#「ちやつぷりん」に傍点]が尻餅をついたといつては笑ひ、電車にはねとばされたといつては笑ひ、その度毎に彼女は水島に接吻の雨を降らした、喜劇は短かつた次には長い/\悲劇物が映写された。
 彼女はしく/\と泣きながら、そして今度は沈着いて悠つくり水島に長い/\接吻を与へることができた。

 水島と彼女との恋愛は、活動常設館での出来事以来、活気づいてきた。そして素晴らしい奇蹟が、すぐ眼の前に待ちもうけてゐるかのやうに、水島の眼はちかちかと忙しく光り、また隠れてゐた天才的なものが、いつぺんに顕はれてきたかのやうに、彼は調子づいた奇術師に等しい活動館での接吻がなによりそれを物語つてゐた。
 そして悪い友人は、それに油をそゝいだ。
 水島と女との奇蹟のために、彼は下宿の自分の六畳間を提供した
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