パンクラブ代表として、老詩人×氏が出席してゐた、彼は果してどんな音響を立てゝ、日本の風船を叩きつぶしたであらうか、日本代表はまもなく日本へ帰つてきた、そこで×氏の報告を兼ねた歓迎会が開らかれた。
 出発の時の馬鹿騒ぎに較べて、×氏の帰朝歓迎会は出席者も少なく見るからに淋しい集りであつた、席上意地の悪い批評家△△氏が卓上演説のとき、クラブ代表×氏にむかつて
『噂に依りますと、パンクラブ日本代表は、余り御老体であつたため、風船を叩きつぶす気力もなく、会場で醜態を尽した揚句、やつとの思ひで叩きつぶしたといふことですが―』
 と無遠慮に質問するのであつた。
 すると日本代表×氏は、やをら席を立つて、洋服の上着のポケットから、折り畳んだ風船をとりだし、それを一同に示しながら
『只今の御質問に対してお答へいたします、みなさん、私は会場で風船を叩きつぶすどころか、このやうに風船を折り畳んだまゝ持ち帰つた有様です、それは何故かと申しますと、日本にはこの紙風船にいれて国際的に持ち出すやうな『自由の精神』があつたでせうか、ありませんでした、だから私は風船にいれずに出席いたしたのであります―』
 と答へた。
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