い、彼は焦燥して床に風船を投げ、足で強くこれを踏みつけると、やつとボンと低い音がして風船はつぶれた。
 次にドイツのパンクラブ代表が、毛だらけの腕をめくつて、手の上にのせた風船を、力まかせに勢ひこめて叩いた、すると恐ろしい大音響を発した、ドイツ代表は得意満面
『斯くのごとく、わがドイツの風船は、自由の精神の声高いのであります』
 と周囲を見廻した。
 するとフランスの風船代表が承知をしません、
『議長、ドイツのクラブの風船の音は、真に自由の叫びではないと考へます、何故ならば、つまり風船の内容物である空気の叫びではなくして、風船の紙の裂ける音の高さであります…』
 ドイツのクラブ員は『違ふ、違ふ―』と怒鳴りだし、イタリーの代表もそれに加担し、果ては、ドイツとフランスとが取つ組合ひを始め議場は混乱に陥つた。
 議長の慰撫と、再審査の結果、フランスの代表に対しては、手で叩きつぶすべき風船を、足まで使つて踏みつぶしたといふ点で無効となり、ドイツの代表に対しては、ドイツの風船の音は、リベラリズムとしての空気の音ではなく、ファシズムとしての紙の音であると認められてケリがついた。
 日本からも、日本
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