が、年齢が年齢なので、ときどき胴忘れをすることも多かつた、そんな時老人は手にした竹の杖でトントンと地を突いてから、杖の中の薄荷水を、手の平の上におとして、それを額の上に塗つた、すると薄荷水はピリリと額と眼にしみて、この刺激で記憶がよみがへつてきた。
 ある時、村に騒動が起きた、それは村の鶏に羽虫が湧き、羽虫は鶏小屋から、鶏小屋へひろがつて行つた、村長は驚ろいて、百歳老人を迎へに行つた。
『はあ、御老体、大変なことになりまして、羽虫のついた鶏は、ひとまとめにして他の鶏と分けてありますが、なにぶん沢山の数なもので御座いまして始末に困つてをります、これは鶏小屋へ返へしたものでございませうか、ひと思ひに殺して喰べてしまつたものでございませうか』
 すると老人は
『わしが、ひとつ考へてみよう―』
 さういつて一間にとぢこもつて考へこんだ。
 だが鶏の羽虫のことを考へるよりも、年齢のせいで、老人は眠くてたまらないので、コクリ、コクリと居眠りを始めた、老人はあわてゝ杖をとりあげたが、あまり大急ぎで家を出てきたので、杖に薄荷水をつめて来るのを忘れてゐたので、これを額に塗つて、眠気をさますことも、村の歴
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