『笑つたのはお前か、お前は何者だ―』
 すると
『僕は波だ、スペインの海岸からたつたいま君達の日本の岸へついた波だ』
 つゞいて次の波が言つた。
『僕は支那の海岸から、日本の岸へ着いた波だ―』
 つづいて浦塩から着いた波や、アメリカから着いた波達が答へた、この国際的な波の笑ひは次第に高くなつていつた。

  果樹園のアナウンサー

 果樹園に大きな望楼が立つてゐた、この望楼は、果樹園の所有者が建てたもので、この国でいちばん声のきれいな、声の高い男が選ばれて、沢山の給料をもらつて、雨の日も風の日も、この望楼の上に立つてゐた。
 このお喋《しやべ》り男は大きな声で叫んだ。
『こちらは果樹園の望楼でございます、只今北風が次第に強く海の方から吹いてまいります、みなさん木が倒れぬやう御注意下さい―』
『こちらは望楼でございます、たいへん果実に虫がつくやうでございます、リンゴには紙袋をおかけ下さい―』
 時には
『××さんの柿が熟れました、只今三個落ちました、これは本年最初の熟柿でございます』
 などと大きな声で叫ぶのであつた。
 このお喋り男は雇はれるとき、主人との約束で、自分のことはしやべつて
前へ 次へ
全186ページ中150ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小熊 秀雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング