違ひものであつて、本場の大島絣は何階の何処そこにあると、このデパートは彼にとつて自分の家のやうに品物の置場所をよく知つてゐた。
 或る日六階に上つて行つた、××県産品陳列会が特別に催されて、反物、陶器、貴金属類がならべられてゐた、掏らうといふ気持もなく、ぼんやりと売場の間を歩るいてゐると、其処に彼をたいへん怒らしたものがある。
『こいつの面《つら》は、何といふ傲慢そのものだ』
 彼はその品をみるとムラムラと反抗心が湧いてきた。それは一見純金に見え、実はメッキに違ひない高さ一尺程のナポレオンの全身像であつた。胸を張り、上眼勝に遠くを睥睨し、強く地の上に長剣を立てゝゐる容子は天地自然や人間の運命を一人で背負つてゐるやうな不遜さがあつた。その彫りの硬さが良い出来ではなかつたが、その彫りの硬さや拙さが却つて人間の意志を忖度しない、たゞ立つてゐればいゝだけの置物の境遇にふさはしい、頑固さを表現してゐた。彼は妙にこの彫像に腹が立つたので、慾得を超えて、本能的にそれを奪らうと心にきめた。
 計画的な最初の手を彼はそつと彫像に触れたが『これはいけない』と直感した。
 彼と横斜めの位置に一人の男が立つて
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