ゐて、確にデパートの監視員にまちがひなく、然もじつと彼の挙動に注意してゐた、彼はその日は帰つた。
一晩中彼の頭の中の策戦本部は活動してゐた。翌日彼は売場にやつてきた、意外なことだ、前日にはなかつたのに、立像の台に三本の針金がかけられてゐて、堅く陳列台にとりつけられてゐた。
『ははあ、俺がねらつてゐるのを感づいたな―』
『よろしい、こつちだつて手はあるさ―』
彼はぷいと子供のやうに不機嫌になつてその日は帰つた。
翌る日、彼はデパートの地階金物売場で、小さな道具を一つ盗んで、二重マントの下に隠して、六階にあがつて行つた。
彼はマントの中から、盗んできた針金切断用のペンチを出して、立像の台の針金を一本だけ切つて、その日は帰つた。翌日も一本、翌る日も一本切つた。彼はどうして一度に三本の針金を切らないのだらう、仕事は毫末も急ぐ必要はなしと彼は考へたからで、三日かゝつて切つたことは、針金さへ彫像の台についてゐれば、その一部が切断されてゐても安心してゐるといふ、間抜けな監視者に油断させるためでもあつた。また殆んど衆[#「衆」に「ママ」の注記]人監視の中のこの針金切断の仕事は、瞬間的である必要
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