た。
 このカーテンを腰に捲くと横綱の意匠廻しに見え、斜め肩にかけると立派な僧正に見え、胸にもつてくると飾りのついた軍服にもみえるやうな性質をもつたカーテンだ。彼はそれを首にかけて歩るき続けたが、巡査講習所から昨日出た許りの新参の警官でも彼の胸を飾つてゐるものに、異様を感じないものはあるまい。彼は間もなく捕へられた。調書の上では彼はカーテンを盗んだことになつてゐるが
『俺はけつしてカーテンなど盗んだ覚えはない、カーテンの奴が、俺の首へひつかゝつてきただけだ―』と彼は心の中で調書を強く否定しつゞけた。

  掏摸と彫像

『世間ではよく、トンとぶつかられたと思つた途端に、電光石火に財布を掏られたなどといつてゐますが、嘘ですよ、いくら職業《しやうばい》でも、さうはいきませんよ』と彼は得意で掏摸にも充分な研究的態度が必要なこと、生優[#「優」に「ママ」の注記]しい職業ではないことを力説するのであつた。
 この掏摸も監房ホテルに入つて来たところをみると、何か彼がいふ研究的態度に欠けたところが、彼自身にあつたに相違ない、それは大いにあつた、××デパートの何階の何番売場の何処の棚にある大島絣は、場
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