まれた洋画や、書棚、安楽椅子など、何れも高価でないものはなかつた。
彼にとつてこの種の調度品は、量《かさ》と重みがありすぎた。彼は結局書棚の上の銀色の装飾的な花瓶を失敬することにきめ、窓から室内に辷り込まうと努力したが、窓は案外の高さで、徒らに彼はカーテンを手で引つぱるだけであつた。彼を不意に驚ろかしたのは、突然何やら重いものが首と胸とを抱きかゝへたことで、彼は驚ろいて尻餅をついた。よくみると彼があまり激しく引張つたので、金具の鐶が千切れてカーテンが、彼の首に落ちてきて、女がショールをかけたやうに首のまはりに引かゝつた。彼は張り切つてゐた力が抜け、何もかもが嫌になつた。カーテンをショールのやうに首にかけたままで、ふらふらと夢遊病者のやうに邸内を出た。彼がその邸をものの数歩も出たと思ふと路は商店街に通じてゐて彼を明るい灯のもとに押し出してゐた。
夜の明るい人通りの中に立つて、すべての恐怖は去り、つくづくと彼は自分の首にかけてゐるカーテンなるものを見た。絨毯のやうに重い、赤と黄と黒との混ぜ織りで、黄は金色に見え、赤は朱に見え、芝居の緞帳よりも、もつと美しい立派なカーテンであることが判つ
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