パンクラブ代表として、老詩人×氏が出席してゐた、彼は果してどんな音響を立てゝ、日本の風船を叩きつぶしたであらうか、日本代表はまもなく日本へ帰つてきた、そこで×氏の報告を兼ねた歓迎会が開らかれた。
 出発の時の馬鹿騒ぎに較べて、×氏の帰朝歓迎会は出席者も少なく見るからに淋しい集りであつた、席上意地の悪い批評家△△氏が卓上演説のとき、クラブ代表×氏にむかつて
『噂に依りますと、パンクラブ日本代表は、余り御老体であつたため、風船を叩きつぶす気力もなく、会場で醜態を尽した揚句、やつとの思ひで叩きつぶしたといふことですが―』
 と無遠慮に質問するのであつた。
 すると日本代表×氏は、やをら席を立つて、洋服の上着のポケットから、折り畳んだ風船をとりだし、それを一同に示しながら
『只今の御質問に対してお答へいたします、みなさん、私は会場で風船を叩きつぶすどころか、このやうに風船を折り畳んだまゝ持ち帰つた有様です、それは何故かと申しますと、日本にはこの紙風船にいれて国際的に持ち出すやうな『自由の精神』があつたでせうか、ありませんでした、だから私は風船にいれずに出席いたしたのであります―』
 と答へた。
 すると意地の悪い批評家はグッと詰つてしまつたが、席の一隅から議論がいつぺんにもちあがつた、若い批評家は立つて斯ういつた
『果して代表のいはれるやうに、我国に風船にいれるほどの一握りの自由の精神もないでせうか、もし代表があくまで無いとおつしやるなら、私は即座にあなたの手にしてゐる風船にそれを吹きこんでお目にかけませう、然しです、その風船はとうてい御老体が、遙々お持ちになることができない程、重いものでありませう―』といつて笑つた。

  若い獅子の自由主義

 森の中では、七匹の獣が選ばれて、森の政治向のことを支配してゐた、ところが選ばれた山犬閣下は自分の牙を磨くことにばかり熱中して、毎日のやうに歯医者通ひをしてゐたし、狼閣下はお洒落で、爪を磨くために、美容院でマニキュアばかりやつてゐる状態であつたから、さつぱり森の政治はうまくいかず、とうとう森中の獣達が怒つてしまつた。
 そこで七匹の獣閣下は辞任して、新らたに七匹が選ばれた、然しこれまで森では自分の身を飾つたり、自分の腹を肥やすことにばかり熱中してゐるといふ、身勝手な獣ばかりが選ばれるので、森の獣達が今度選ばれた七匹も信用しなくなつ
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