の料理と、三本の葡萄酒とがのつてあり、それに三脚の腰掛の用意まで、ちやんとしてあるではありませんか、大胆な黒い騎士は、
『なんといふ気の利いたホテルだらう。』
などと平気で無駄口をきゝながら、たらふく料理を喰べましたが、臆病な他の騎士は喰物が咽喉にはひるどころではありません、ます/\震へるばかりでありました。
次にまた不思議なことには、第四の部屋には、三人分の寝台が用意されてあることでした。
黒い騎士は平気で、この寝台のふつくらとした羽布団にくるまれてねむりましたが、白い騎士と青い騎士は、寝台の中に小さくなつてをりました。
すると真夜中頃、とほくからだんだんと騎士の室の方に、ちかよつてくる足音が聞えましたが、やがて、ぱたりと室の前で足音はやみ、音もなく扉が開かれました。
二人の騎士は怖々そつと頭をもたげて見ますと、それは第二の部屋に、石のやうに坐つてゐた女でありました。
女は黒い騎士の寝台にちかよつて、小さな聞きとれないやうな声で
『もし/\、太陽の申し児のやうな、たくましい旅の若者。わたしが一生のお願ひがございます。もし/\。』
かう言つて、なんべんも冷めたい手で黒い騎士の首筋を撫で廻してをりましたが、黒い騎士は昼の疲れで大鼾で眠つてゐるので、女はこんどは白い騎士と青い騎士の寝台のところに近よつてまゐりました。
四
夜が明けるのを待ちかねて、青い騎士と白い騎士は、黒い騎士をゆり起して、早々にこの怪しい古い寺院を出発いたしました。
そして三人は旅を続けましたが、寺院から一里もきたと思ふころ二人の騎士は、前夜の出来事を始めて黒い騎士に物語りました。
黒い騎士は、前夜の出来事を聞いてたいへん残念がりました、そしてこれから今一度引返して、奇怪な女の正体を見極めてくると、言ひ出しました。
青い騎士と、白い騎士はそのことにたいへん反対いたしましたが、黒い騎士はどうしてもきゝいれませんでした。しかたなく二人の騎士は、そこで黒い騎士と別れて、一足先に王城にむかつて出発いたしました。
大胆な黒い騎士は、その日の夕方、野の中の古い寺院に引返してまゐりました。
扉はなんの苦もなく、ひらかれました。
第一の部屋には、騎士がたつた一人で引返してくることを、ちやんと知つてゐるかのやうに、土間には、一つの秣桶と、一つの水桶と、が用意され、第二の部屋には、一人分の食事と、第三の部屋には、ものを言はぬ女が坐つてゐて、第四の部屋には一人分の寝台とが用意されてをりました。
黒い騎士も、さすがに不思議に思ひながら寝床の中にもぐりこんで眠りました。
果して真夜中頃遠くから足音がしてやがて、その足音は、騎士の室《へや》に忍びこみました。
騎士は寝息を殺して、じつと様子をうかゞつてをりますと、前夜のやうに
『もし/\、太陽の申し児のやうな、たくましい旅の若者。わたしが、一生のお願ひがございます。』
と女が小声で言ひました。
騎士は、やにはに、がばと飛び起きて、しつかりと女の袖を、捕へました。しかし女は少しも逃げようとはせず、窓から戸外をながめながら遠くを指さします、そしていかにも案内をするやうに、自分が先にたつて歩るきだしましたので、騎士は狐につまゝれたやうに、その後について行きました。
すると女は野原の暗がりを十丁程も先に立つて歩るきましたが、女の着いたところは小高い丘になつてゐました、そしてそこの草の茂みの中に二三十の石碑《せきひ》がならんでをりました。
女と騎士は墓場にやつてきたのでした。女はその石碑のうちの小さいのを指さして、唖のやうに無言に、土を掘れと手似《てまね》をするので、大胆な黒い騎士は、度胸をきめて土を掘りました。
なかゝらは、まだなま/\しい赤児の死骸が出てまゐりました。
女はこれをながめて、にや/\と笑ひました。
五
女は不意に、赤児の腕をぽきりと折つたと思ふ間に、むしや/\と喰べ始めました。
さすがの黒い騎士も、からだに水を浴びたやうに、恐ろしく思ひました。
しかしこゝで弱味を見せてはならないと心に思ひましたので、女が次の腕をもぎとつて喰べだしたとき、だまつて手を差しだしました。
騎士は赤児の腕を喰べようとするのです。女はこれをみて声をあげて、笑ひました。そして赤児の頭をもぎとつて、騎士の手に渡しました。
騎士はその赤児の頭をうけとると、眼をつむつて、夢中になつて噛りつきました。
赤児の頭は案外柔らかく、そしてぼろ/\と乾いた餅のやうに欠け落ちるのです。その味はなんだか、蜜のやうに甘いやうに騎士には思はれました。
騎士は頭を喰べおへると、また手を出して赤児の足をくれと女に言ひました。騎士は何が何やら、わけがわからなくなつてしまつたのでした。
そして騎士は、まつ暗な墓
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