である王城のある街へ、せつせと旅をつゞけてをりましたが、三人の住んでゐた街から、王城までは、かなりの里程《みちのり》がありましたし、それに広々とした野を横切らなければなりませんでした。
騎士達の住んでゐた街の、いたるところの街角に奇妙な木の札《ふだ》が建てられたのは、ついこの間のことでありました。
それはこの国でいちばん勇ましい騎士に王様が、たつた一人よりない可愛い王女をくれるといふ、立字《たてじ》が書き綴られてあつたのです。
もと/\この国の王様には、王子のないことを臣民は知つてをりました。
それで若い騎士達は、争つて王城をさして押しかけました。美しい王女さまを貰つた上に、この国の王様の世継となつて、やがてはおびたゞしい土地と、人民を統御することを想つては、若い騎士達はじつとしてゐることができませんでした。
そしてぞく/\と押しかけた騎士達は、王宮の前庭にたくさん集りました。
たゞ騎士達は、この多数の自分達の仲間から、たつた一人の幸福な候補者を王様はどんな方法で、お選びになるかといふことが、だれにもわかりませんでした。
王様の御前で、勇ましい真剣勝負をするのか、または闘牛の技競《うでくら》べをするのやら、馬術をおめにかけるのやら、さつぱりわかりませんでした。
この三人の騎士達も、この思ひもかけない幸福にめぐり合ふとして旅をつゞけてゐる若者でありました。
三人の騎士達が、野原のまん中までやつてきたときに、とつぷりと日が暮れてしまひました。
黒い騎士は、こんなに日が暮れては路《みち》がわからないから野宿をしようと、二人の騎士にむかつて言ひました。
ところが後の二人の白い騎士と、青い騎士とは、明るいうちは、それは強さうなことを言つてをりましたが、とつぷりと日がくれてしまつては、急に怖気《おぢけ》がついて一歩も馬の足をすゝめることができなくなりました。
それにこんな野原のまんなかに野宿などをしては、さびしくて堪らないと考へましたので、黒い騎士に反対をしてとにかく、行けるところまで馬を進めようと言ひました。
しかたなく黒い騎士は、二人の言ふ通りに、夜どほし歩くことにいたしました。
白い騎士と、青い騎士は、頭上をとぶ名も知れない怪鳥の叫び声にも、しまひにはふるへる程の臆病の本性を現はしてしまひました。
黒い騎士は、臆病な、二人を追ひ立てるやうにはげまし、はげまし路を急いでまゐりますと、ふいに三人の馬の鼻先で、それは大きな法螺の貝の響がいたしましたので、白い騎士と青い騎士とは、驚ろいてきやつと言ふなり棒立ちになつた馬から落つこちましたが、大胆な黒い騎士はさつそく、半弓をもの音のあたりに、ひやうと射放しました。しかし不思議な物音はそれきりきこえませんでした。
二人の騎士はます/\怖気がついて、果ては一歩もあるくことができなくなりました。
ところが、ちやうど幸ひなことには、はるか遠くに人家のあかりがひとつ見えましたので、三人はたいへん元気づいて馬をすゝめました。
二
広い野原のまんなかに建つた、大きなお寺の、高い窓から、光がもれてくるのでありましたが、そのお寺は久しい間人が住んでゐなかつたと見え、壁は崩れかけて、いかにも古めかしい建物でありました。
たどりついた三人の騎士は、とんとんと朽ちかけた扉をたゝきましたが、なかゝらは何の返事もありませんでした。
短気な黒い騎士は、力いつぱい扉をひきましたが、扉はなんの戸締りもなかつたので、それは苦もなくやす/\とひらかれました。
そこは天井の高い第一の部屋になつてをりましたが、そこの土間には、三つの秣桶《まぐさをけ》と三つの水桶と、三つの毛ブラシと、がちやんと置かれてありました。
ちやうど、三人の騎手[#「手」に「ママ」の注]の乗つた三頭の馬がやつてくるために、用意をしてあるかのやうでありました。
黒い騎士はたいへん喜んで、さつそく乗つてきた馬に、水桶の水をやり、秣をやり、ブラシで毛なみをきれいに撫でゝやりましたが、他の二人の騎士達は、あまりのうす気味の悪るさに、たゞ呆然と突立つてをりました。
それよりも不思議なことには、次の第二の部屋には、一人の女がきちんと膝を組んで坐つてをりました。
顔色は凄みを帯びたほどに白く、髪を長く後に垂れ、青い上着をきたこの女は、人形のやうに、唖のやうに、坐つてをりました。
『旅の三人の騎士です一夜のお宿をおねがひしたい。』
かう黒い騎士は、女にむかつて言ひましたが、女は冷めたい大理石のやうに坐つたまゝ、一言の返事もいたしませんでした。青い騎士と白い騎士は、がた/\と震へだしました。
三
つゞいてまた不思議な事を発見されました、それは次の第三の部屋には、大きな丸テイブルが据ゑられて、その上には三人前
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