てゐる
すべてが敏感だし、
環境だけが
私を猿の苦しみから救つてくれるだらう
どんな環境か――、
そんなことはちよつといへない、
そのときまでは救ひきれない
私は走りまはる
私は一切を愛する
私は悪女のやうな深情をもつてゐる
そして人間よりも活動的だ
そして何ものをも
自然から奪つたものは
自然へかへさない
黒い月
私は郊外をあるいた
月があまりに強く光つてゐて
月がかへつて黒く見えて
あたりが白く見えた
物語りめいた
黒い月など
みつけてしまつた
貧富の明暗
ビアズレイの画のやうな
白と黒との世界
世の中は黒い月をみつけるほど
なんでも逆になつてしまつた
恋とは失恋するために――
一生懸命になることだし
生命を縮めるために
生きてゆかうとしてゐる
黒い月が光るので
あたりが白くなる
印度人は白い服を着る
お前が黒い服を着たなら
却つて色が白く見えるのに
黒い月が光るので
なにもかも世の中が逆になつた
今日の仕事は
酒に水が割られなかつたとき
私といふ国民の傍に
ほんとうの酒があつたとき
私は飲むことを忘れなかつた
いまは忠実な国民として
全く禁酒してゐる
をかしなことには
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