小熊秀雄全集−9
詩集(8)流民詩集1
小熊秀雄

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 二十年も、そのもつと前に、自分は詩を書き初めたとき、こんな念願をたてたものであつた、それは一生の間に自分の身長だけの高さの、詩集の冊数をもちたいものだといふことであつた。またその頃は、若く生命の燃焼ともいふべきものが旺盛であつたから、眼にふれるもの、心にふれるもの、みんな詩になりさうで、身長位の高さに詩集がもてさうな気もしたのである。
 ところで現在その慾望は果されたらうか。自分は今度の詩集発行を加へて、三冊目で当年四十三歳になつてしまつた。その詩集の高さは、身長どころか、ようやく足のクルブシを越へたにすぎない。詩人の中では自分は多作の方だがこの分では一生の間に、膝頭の高さまでにも達しないでしまふだらうと思ふ。今度の詩集に就ても、特別な選択を加へて、外見的にももうすこし、良い詩を集めることができたのだが、さういふ選択がいかに悪いことであるかといふことを感じたので、何にもかも洗ひざらひ収めることにした。
 この詩集は、選ばれた良い詩を読者に読んでもらうのではなくて、やつぱり良い詩も、悪い詩も、みんな読
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