のかたまりを――
花
女は言葉で追ひつめて
男を自殺させる
力をもつてゐる
しかし男はなかなか
死なないだけなのだ
死にかはるものに
混乱といふものもある
私は運命のかなしさを
知り始めてから
愛をいつも屈折のある
むづかしい表情や心をもつた人に
求めようとする
私は傷つき易く
治ることが遅い心をもつてゐる
女よ、男をからかはないでくれ
距離をおいて軽蔑されるために
向ひ合つて座つてゐるやうな時間は
実に耐へがたい
雨が降つてゐる
彼女はやつて来ないだらう
私は雨の中をみてゐる
硝子戸越しに
外套をきた人の影が
痩せた動物のやうに
肥えた動物のやうに
細くなつたり太くなつたり
近づいたり、遠ざかつたりして
影は消えてしまふ
待つとも待たないとも
言ふことのできない焦だち
机の上には心を落ちつかせる色をしてゐる
ヱリカ、アポレリアの花、
類人猿
私は人間になりきれない
類人猿の悩みがある
私は人間になりきれない
いや――私は人間になつてやらない
もし環境でも変つたら
人間にならう
それまでは私は
狂ふやうに歩く
眠つてゐても窺つてゐる
叫んでゐても考へてゐる
泣いてゐても笑つ
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