茜色のつよい喜びを感じてゐる
愛する人よ
春の聡明な色彩は日増しに美しく
生活の谷間からのぼつてくる。
苦しみをかくまでにも秩序立て
悩み苦しむ方法を
私達はどこから学んできたのだらう
過渡期の愛の新しい苦しみが
前方に私達を待つてゐるが
その新しい苦しみの性質を
生活の途上で我々は知りつくす
愛の大きな優位性をもつだらう。
馬の胴体の中で考へてゐたい
おゝ私のふるさとの馬よ
お前の傍のゆりかごの中で
私は言葉を覚えた
すべての村民と同じだけの言葉を
村をでゝきて、私は詩人になつた
ところで言葉が、たくさん必要となつた
人民の言ひ現はせない
言葉をたくさん、たくさん知つて
人民の意志の代弁者たらんとした
のろのろとした戦車のやうな言葉から
すばらしい稲妻のやうな言葉まで
言葉の自由は私のものだ
誰の所有《もの》でもない
突然大泥棒奴に、
――静かにしろ
声を立てるな――
と私は鼻先に短刀をつきつけられた、
かつてあのやうに強く語つた私が
勇敢と力とを失つて
しだいに沈黙勝にならうとしてゐる
私は生れながらの唖でなかつたのを
むしろ不幸に思ひだした
もう人間の姿も嫌になつた
ふる
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